「教育で選ばれるまち」を実現するためには、先生たちが子どもたちと丁寧に向き合える環境づくりが不可欠です。小平市議会令和7年12月定例会、11月26日の一般質問では、教員の働き方改革を加速させるための3つの提言を行いました。
- 働き方改革に向けた計画の実効性確保:トップダウンではなく、現場教員の納得感を重視した業務見直しを進めること。
- 教育DXの推進:「紙からデジタルへ」の移行と、安全なAI活用環境の整備。教育委員会だけでなく市長部局とも連携して予算・人材を確保すること。
- 部活動の地域移行:教員の「やりがい搾取」を防ぎ、意欲ある教員が正当な対価(報酬)を得て指導に関われる仕組みを作ること。
はじめに:「教育で選ばれるまち」へ、教員の働き方改革を加速する
教員の「働き方改革」は、単に長時間労働を是正するという問題に留まりません。これは、先生方が子どもたち一人ひとりと丁寧に向き合う時間を確保し、小平市の教育の質そのものを向上させるための、最重要課題です。「教育で選ばれるまちづくり」を実現するためには、この改革をさらに加速させることが不可欠であるとの強い問題意識から、今回の一般質問に臨みました。
- 国の動向
国は公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)の改正や教育DXロードマップを示し、働き方改革の大きな方向性を示しています。 - 小平市の現在地
本市でも、生成AIの活用や、令和8年度からの部活動の地域移行など、具体的な取り組みが始まろうとしています。 - 今回の質問の軸
私は、「校務効率化」と「地域協働」という2つの軸から、改革をさらに一歩前に進めるための具体的な論点を提示しました
まず改革の土台となるべき新たな計画策定の課題から、論点を整理してレポートします。
働き方改革の羅針盤:実効性のある新計画の策定を
給特法の改正(令和8年4月1日施行)に伴い、各自治体には「業務管理・健康確保措置実施計画」の策定が義務付けられました。この目的は、教職員の過重な業務負担を軽減し、健康で働きがいのある環境を整備することです。
本市の教育委員会は、平成31年に策定した「市立学校における働き方改革推進プラン」を改訂し、業務管理・健康確保措置実施計画として取り扱うことを予定しているとの答弁がありました。本年度中(令和7年度中)に教育委員会が完成させ、提示する予定とのことです。また、計画の改定後、教育委員会は、毎年度の実施状況を把握し、公表します。その状況を踏まえて、必要に応じて取り組みの改善につなげていく方針であることが明らかとなりました。
ここで注目すべきは、計画を単なる形式的な文書に終わらせず、「羅針盤」として機能する実効性ある計画づくりと運用をいかに実現するかという点です。
国が示す3つの重要ポイント
今回の法改正の改正を受けて、国が示した働き方改革に関する方針には、特に重要なポイントが3つあります。
- 数値目標の設定
残業時間について「月平均30時間程度」といった具体的な目標が定められました。 - 学校と教師の業務の3分類
「学校以外が担うべき業務」「教師以外が積極的に参画すべき業務(部活動など)」など、業務の役割分担が明確化されました。 - 「見えない残業」の禁止
時間内に業務が終わらないからといって、持ち帰り残業を増やしてはならない、と明確に釘を刺した点です。
小平市の現状:目標達成への険しい道のり
では、本市の現状はどうでしょうか。私の質問に対し、市は「小学校では月平均30時間という目標は達成しているものの、中学校では依然として超過している」と答弁しました。また、国は「月45時間を超える在校時間の教員を0%にする」という目標を掲げていますが、その水準にはまだ遠い状況です。
さらに、持ち帰り残業については、各教員がどの程度の持ち帰り業務を行っているのか、その実態が把握されていません。私自身の教員としての経験からも、授業準備など創意工夫を要する業務については、どこまでを業務時間内とみなすかの線引きが難しく、結果として「見えない残業」となってしまう課題があると認識しています。
こうした状況は、市全体として目標達成が容易ではない現実を示すものです。だからこそ、実効性のある計画づくりが不可欠なのです。
私の指摘と提案:現場の声を反映した計画づくりを
- 学校以外が担うべき業務
- 保護者等からの過剰な苦情や不当な要求等の学校では対応が困難な事案への対応
- 学校徴収金の徴収・管理 など
- 教師以外が積極的に参画すべき業務
- 部活動
- ICT機器・ネットワーク設備の日常的な保守・管理 など
- 教師の業務だが負担軽減を促進すべき業務
- 授業準備
- 学習評価や成績処理 など
- 教師が教師でなければできない業務に専念できるよう、服務監督教育委員会は、これらを踏まえて、それぞれの地域における業務の見直しについて、優先的に対応するものから「業務量管理・健康確保措置実施計画」に反映。
- 学校は、学校運営協議会等での議論を経て、優先順位を定めながら、各校の実情に応じた運用を行う。
- これらの代表例のほか、地域・学校ごとの議論を踏まえて、業務を不断に見直すことが必要。
詳細は以下の資料をご確認ください。
業務の3分類は、業務量管理・健康確保措置実施計画の基礎にもなりますが、市の現状を確認したところ、教員への「業務の3分類」の周知はまだ行われていないことが明らかになりました。
そこで私は、計画策定にあたり、教育委員会からのトップダウンではなく、教職員自身が「3分類」を元に自分たちの学校の働き方を主体的に議論するプロセスが不可欠であると強く提案しました。例えば、「この業務は本当に先生がやるべきか」「もっと効率化できないか」といった議論を現場で行うことで、計画は初めて実効性を持ちます。先の、どこまでが持ち帰り残業なのかなども含めて、計画の成否は、現場の先生方の納得感(コンセンサス)にかかっているのです。今回の議論を通じ、教育委員会は、この3分類が単なる表として一人歩きしないよう意識しつつ、早めに現場に伝えていくことを検討する考えを示しました。
教育DXの現在地:「紙からデジタルへ」の徹底を
行政におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、私の政策の一丁目一番地。
なぜならば、人口減少と少子高齢化が加速する中、限られた財源と人的資源で質の高い市民サービスを維持・向上させるには、デジタル技術による業務プロセスの抜本的な改革が、もはや選択肢ではなく必須条件です。単なる効率化にとどまらず、デジタルに任せられる仕事は機械に任せ、職員は人間にしかできない「市民へのきめ細やかな相談対応」や「支援」に注力できる環境を作ることこそが重要だと確信しているからです。この信念こそ、これまでも一般質問で繰り返し取り上げてきた理由です。
教育現場においても、DXは「働き方改革」の切り札です。アナログな業務から解放されることは、教員の事務負担を劇的に軽減し、子どもたちと向き合う新たな時間を生み出すための強力なエンジンです。 しかし、その効果を最大限に発揮するためには、全庁的かつ計画的な推進が欠かせません。



校務DX最前線:教員の「やめることリスト」はどこまで実現したか?目標と現実のギャップ
教員の働き方改革を推進する上で、業務の徹底的な効率化、すなわち校務DXの推進は不可欠です。国が示す「教育 DX ロードマップ」には、教員の負担となっている慣習を断ち切るための「12 のやめることリスト」が掲げられています。これは、紙でのアンケートや、電話等による欠席連絡等の受付など、アナログな手法からデジタルへの転換を促す具体的な項目群です。

小平市教育委員会の答弁では、「12のやめることリスト」の「多くの項目についてすでに実現できているものと捉え ております」という認識を示しています。
12のやめることリストとは完全に一致した内容ではありませんが、デジタル庁が校務DXの進捗状況(多くは12のやめることリストと重なっている)を公開しています。

この進捗データを見ると、学校間での取り組み状況に大きなばらつきがあることが課題として浮き彫りになりました。例えば、欠席・遅刻・早退の連絡について、デジタルの受付が半分以上(90%)であるものの、完全なデジタル化(100%)に達しているのは50%に留まっています。また、お便り配信についても、半分以上で配信している学校は30%であり、全校での完全な実現には至っていません。
「校務 DX」の取り組みが努力目標で終わらず、教員の負担軽減に確実につながるためには、この未達成の項目や、学校間で進捗が済まない原因を詳細に把握・分析することが急務です。
私の提案:安全な環境整備と推進体制の強化を
このギャップを埋め、DXを加速させるため、以下の3点について提案しました。
- 具体的なロードマップの策定
- 校務DXの推進を「努力目標」に留めるのではなく、全ての学校でデジタル化を100%達成するための具体的な期限や工程表を市として策定し、取り組みを強力に推進すべきだと求めました。
- 答弁では、今後具体的な計画を進めていきたいとの見解を示しており、今後は明確な目標設定のもとで校務DXが加速することを期待します。
- AIのさらなる活用と、安全なAI利用環境の整備
- 本市では、公務における生成AIの活用が有効であるとの認識のもと、研修が実施され、各学校での業務改善に寄与していると捉えられています。
- 一方で、現場では無料の生成AIツールが利用されていますが、個人情報や機密情報の漏洩リスクが常に伴います。市として統一的で安全な生成AIプラットフォーム(有料版など)へ速やかに移行を計画すべきだと提案し、有料版に移行できるかというところも含めて研究はしてまいりたいとの回答がありました。
- あわせて、その土台となる教育情報セキュリティポリシーを早期に策定するよう求め、市からは「本年度中に完成予定」との答弁を得ました。
- 統合型校務支援システムの導入など
- 東京都は「統合型公務支援システム」の共通化及びクラウド化を進める方針を示しているため、本市としての対応を求めました。
- 本市は、令和7年5月(本年5月)から都内全区市町村が参加する共通化に向けた会議に参加し、情報収集に努めているとのことです。共通化が実現すれば、教員の移動時の負担軽減や調達コストの削減が期待されるため、将来的なシステム共通化に向けて引き続き検討を進めていく方針との答弁がありました。
こうした専門的な課題は、教育委員会だけで解決できるものではありません。だからこそ、市長部局との連携が不可欠なのです。教育DX、特に公務の効率化や安全な環境整備には、高度な専門知識と十分な財源が必要です。安全なAI環境の構築、高度なセキュリティ管理、そしてシステム改修を進めるにあたって、教育委員会や現場教員だけでは限界があると考えます。
国の指針において、業務管理・健康確保措置実施計画の実施状況の公表や総合教育会議への報告を通じて、市長部局との連携が求められていることを踏まえ、教育委員会がDX推進を抱え込むべきではないと提言しました。具体的には、先行して検討を進めている市長部局のデジタル政策担当部署や、デジタル政策参与とも連携し、以下の推進を要望しました。
- 予算確保
- 専門人材の派遣
- 教職員の研修提供
教育DXを実効性のあるものとするためには、デジタル政策担当部署の専門性とリソースを最大限に活用した協力体制を早急に確立し、未来志向の教育環境を整備していくことが不可欠です。学校にいかにDXを展開していくかについては教育委員会の考え方も考慮する必要がありますが、市長部局からの答弁では、今後も、必要な支援に関しては、どのような形でできるかということなど、随時調整する考えが示されました。今回は、方針を問う形での提言を行いましたが、今後も具体的な方法論を含めて政策提言を行っていきます。
部活動の地域移行:円滑なバトンタッチのために
中学校の部活動を、学校から地域クラブへと移行させる「地域移行」は、教員の負担軽減の大きな柱の一つです。この改革の成否は、先生方が新しい制度を正しく理解し、そして地域に意欲ある指導者を確保できるかにかかっています。教員の不安を解消し、円滑な移行を実現するための具体的な仕組みづくりを求めました。
私の提案:意欲ある教員が関与できる仕組みづくりを
- 意向調査の実施
新しい仕組みについて教員が正しく理解した上で、今後も指導に関わりたいかどうか、その意欲を確認するためのアンケート調査を適切なタイミングで実施するよう求めました。- 市の答弁: 本年度中に実施予定であるとの回答でした。
- 正当な対価(報酬)ルールの整備
指導に意欲を持つ教員が、やりがい搾取のようなボランティアではなく、正当な対価を得て関われる仕組みが不可欠です。兼業許可に基づき、報酬(謝礼金など)を受け取れるルールを早期に示すよう求めました。- 市の答弁: 地域移行後の地域クラブに委嘱する際の、謝礼等の形で検討しているとの回答でした。
部活動の地域移行は、単に教員の負担を軽減する措置に留まりません。これは、子どもたちの多様な学びと成長を支える、持続可能で質の高い地域活動へと進化させるための、重要な転換点です。
指導への参加を「意欲やボランティア、やりがいだけに依存させるだけでは持続可能なものにならない」と私は主張しました。経験豊かな教員の指導力を地域クラブ活動で引き続き生かすためにも、「しっかりと対価を払った上で参画してもらう形」を強く求め、そのための受け皿を整備する必要性を強調しました。
市からは、希望する教員が兼業許可を申請し、認められた場合には「謝礼等の形」で対価を支払うことを想定しているとの見解が示されました。この対価を明確化し、教員が安心して地域活動に参画できる制度設計こそが、部活動の質を維持し、さらに向上させるための基盤となります。
また、部活動の地域移行は、地域の魅力を高める重要な機会でもあります。本市には、強いもの、優れたものがたくさんある「特色のある部活動を維持・強化」し、それらを活かして「人を呼び込めるような形で部活動を位置づけるべきである」という提言も行いました。持続的な活動の受け皿を整備し、対価を伴う指導体制を確立することで、地域クラブは質の高い指導を提供し続け、それが「教育で選ばれるまちづくり」へと繋がります。
結びに:子どもたちの豊かな学びと成長のために
私自身も教員として教育現場に身を置いた経験から、先生方が心身ともに健康で、情熱を持って働ける環境を整えることが、巡り巡って小平市の子どもたちの豊かな学びと成長に直結すると確信しています。
今回の働き方改革は、教育委員会だけの課題ではありません。「教育で選ばれるまちづくり」の中核をなす重要政策として、市長部局と教育委員会が一体となって、専門知識や予算を投入し、強力に推進していく必要があります。
これからも現場の声に寄り添いながら、小平市の教育環境の整備に全力で取り組んでまいります。
