令和7年12月15日に実施された小平市農業現地圃場視察研修会では、実際の生産現場を訪れ、農家の皆様から率直な声を伺いました。
今回の視察を通じて明らかになったのは、都市農業が「工夫と技術」で進化を続けているからこそ、行政による後押しの重要性が一層高まっているという現実です。特に、次の3点は喫緊の課題です。
- 気候変動への対応支援の強化
- 資材価格高騰への現実的な対策
- 都市部特有の鳥獣被害への行政的対応
はじめに
12月の定例会で行った一般質問では、都市農業について取り上げ、多くの反響をいただき、ありがとうございました。議場での議論はもちろん重要ですが、もともと実験科学者だったこともあり、「実際の現場にこだわる」というのが私の信条です。
令和7年12月15日には、小平市農業現地圃場視察研修会が開催されました。今回は2つの圃場を見学しながら、「実際のところ、農家の皆様は今、何に困り、何を目指しているのか」という現場の声を伺いました。

都市ならではの「技術」で土地の制約を超える
最初に伺ったのは、梨やぶどうを栽培されている吉澤園さんです。
都市農業の課題、土地の制約を乗り越える
住宅地に隣接する農地で、いかに効率よく、安全に果物を育てるか。その答えの一つが、園全体に張り巡らされたこのシステムでした。梨の木一本一本を管理し、水や肥料を自動で最適化する「根域制限栽培」という最先端技術です。
園主が「広い土地がある地方ではできない、都市部だからこそのシステム」 と仰る通り、なんとこれにより従来以上の収量が見込めるとのこと。限られた都市の農地を最大限に活かす、まさに逆転の発想です。

地域と共生するための「青いネット」
また、農園全体を覆う青いネットにも深い意味がありました。これは鳥よけだけでなく、農薬の飛散防止、外部からのゴミ侵入防止、そして落ち葉が近隣へ散らばるのを防ぐ役割を果たしています。都市農業が地域と共存していくための、高い意識と配慮に感銘を受けました。

地域の「食」と「学び」を支える
次に伺ったのは、植物工場から露地栽培、食育まで幅広く手がける有限会社東京ドリームさんです。

365日稼働の植物工場と、新たな挑戦
30年前から稼働する植物工場では、無農薬レタスが毎日生産されています。「洗わずに使える」という付加価値は、多くの飲食店で重宝されています。
さらに2年前からは、菌床(きんしょう)しいたけの自社製造・栽培にも挑戦。温度管理が難しい中での試行錯誤の話に、「計画通りにいかないのが農業」という自然相手の厳しさを再認識しました。
こどもたちの給食を支える「大黒柱」
今回もっとも驚いた事実の一つが、市内の小麦生産についてです。
現在、市内で小麦を作る農家はわずか2〜3軒。その中で東京ドリーム様は、学校給食で使われる小麦の6〜7割以上を生産されているそうです。
さらに学童農園の受け入れなど、私たちのこどもたちの「食」と「教育」は、こうした農家さんの努力によって支えられているのです。


現場で突きつけられた「3つの壁」
今回の視察では、希望あふれる取り組みの一方で、個人の努力だけではどうにもならない「構造的な課題」も浮き彫りになりました。特に深刻なのが以下の3点です。
1. 気候変動という「脅威」
「夏の暑さで梨や野菜が育たない」「保存していた玉ねぎが腐る」「冬は大根が凍る」。
かつては当たり前だった生産や保存が、気候変動により通用しなくなっています。これに対応するには、保冷庫などの新たな設備投資が必要不可欠です。12月定例会で、保冷庫の導入やメンテナンスへの補助を訴えた背景にはこのような声があったからです。
2. 止まらない「コスト高騰」
肥料やビニールハウスなどの資材価格が跳ね上がっています。
例えば、猛暑対策に必要な特殊なマルチシートは、従来品の約3〜4倍、1巻1万円もするそうです。
また、減農薬のために輸入する天敵(ダニ)や、受粉用花粉の価格も高騰。「良いものを作ろう」「環境に配慮しよう」とするほど、コストが重くのしかかる現実があります。
3. 都市部での「鳥獣被害」
住宅地のすぐそばまでハクビシンやアライグマなどの野生動物が迫っています。しかし、法律の壁があり、捕獲後の処理も専門業者に依頼せざるを得ず、その費用も比較的高額です。
農家さんが自腹で都市の生態系問題の最前線に立たされている現状は、早急に見直さなければなりません。
結びに:私たちにできること
今回の視察を通じ、都市農業が単なる食料生産の場ではなく、防災、環境、教育といった 「まちの財産」 であることを改めて確信しました。
しかし、その存続は今、多くの課題を抱えています。
気候変動対策への支援、資材高騰への緊急補助、そして行政主導による広域的な鳥獣被害対策。これらは、待ったなしの課題です。今回の視察でいただいた切実な声を、今後も、議会での具体的な政策提言へと必ず繋げてまいります。
